▸ この記事のポイント
- 骨盤底筋は膀胱・子宮・直腸を支える筋肉群。分娩で傷ついたり伸ばされたりすることで機能が低下する
- 骨盤底筋のゆるみが引き起こす問題:腹圧性尿失禁(くしゃみで漏れる)・性交痛・骨盤臓器脱
- ケーゲル体操(骨盤底筋体操)は産後6〜8週から開始でき、数か月継続することで改善が期待できる
- 産後に「何もしなくてもいつかよくなる」とは限らない。早期から継続的なトレーニングが重要
骨盤底筋とは
骨盤底筋(pelvic floor muscle)は骨盤の底を構成する複数の筋肉・靭帯・筋膜の総称だ。膀胱・子宮・直腸を下から支え、排尿・排便・性機能に関わる重要な筋肉群だ。
経膣分娩では胎児が産道を通過する際に骨盤底筋が大きく引き伸ばされ、筋肉・神経・結合組織が損傷することがある。帝王切開でもある程度の影響はある。
骨盤底筋の問題が引き起こす症状
- 腹圧性尿失禁:咳・くしゃみ・笑い・運動時に尿が漏れる。産後女性の約30〜40%に発生
- 過活動膀胱:急に強い尿意を感じる・間に合わなくて漏れる
- 性交痛(産後):骨盤底筋の過緊張・損傷部位の瘢痕化による
- 骨盤臓器脱:子宮・膀胱・直腸が膣内に下垂する状態。重症化すると手術が必要
- 排便障害:便秘・排便困難・ガス漏れ
ケーゲル体操のやり方
ケーゲル体操は骨盤底筋を意図的に収縮・弛緩させるトレーニングだ。道具不要で、いつでもどこでも行える。
基本のやり方
- 仰向け・椅子座位・立位のいずれかで行う
- 膣・肛門を同時に「上に引き上げる」ようにゆっくり締める(5〜10秒間)
- ゆっくり力を抜く(5〜10秒間)
- これを10回1セットとして、1日3セット行う
よくある間違い:お腹・お尻・太ももを力ませてしまうこと。「骨盤底筋だけを締める」感覚がつかみにくい場合は、排尿を途中で止める感覚(実際には行わない)をイメージするとよい。腹筋や臀筋を使わないよう注意する。
いつから始めるか
- 経膣分娩後:産後24〜48時間から軽いトレーニングを開始できる。会陰の痛みが強い場合は産後6週健診後から始めてもよい
- 帝王切開後:傷の回復を確認してから産後6〜8週ごろ開始
- 継続期間:最低3か月間の継続で効果が現れることが多い
尿漏れが改善しない場合
ケーゲル体操を3〜6か月続けても尿漏れ・性交痛・骨盤臓器脱が続く場合は、骨盤底筋理学療法(ウィメンズヘルス理学療法士)の専門的な指導を受けることを勧める。重症の骨盤臓器脱には手術(子宮固定術・メッシュ手術)が選択されることもある。
まとめ
産後の骨盤底筋ケアは、尿漏れ・性交痛・臓器脱の予防と改善に不可欠だ。「産後は仕方ない」と諦めずに、早期からケーゲル体操を継続してほしい。症状が続く場合は産婦人科・泌尿器科・理学療法士に相談できる。
参考文献
- 日本産科婦人科学会. 産婦人科診療ガイドライン 産科編2023.
- Bø K. “Pelvic floor muscle training in treatment of female stress urinary incontinence.” Neurourol Urodyn. 1995.
- Dumoulin C, et al. “Pelvic floor muscle training versus no treatment for urinary incontinence in women.” Cochrane Database Syst Rev. 2018.