▸ この記事のポイント
- 骨盤炎症性疾患(PID)は、性感染症菌(クラミジア・淋菌など)が子宮・卵管・骨盤腹膜に広がる感染症
- 症状が軽い・無症状のまま進行することがあり、気づかないうちに卵管癒着・不妊・異所性妊娠の原因になる
- 治療は抗菌薬の組み合わせ。早期治療で後遺症リスクを大幅に下げられる
- PIDを繰り返す場合は不妊専門クリニックでの評価が必要
骨盤炎症性疾患(PID)とは
PID(Pelvic Inflammatory Disease)は、膣・子宮頸管に感染した細菌が上方に広がり、子宮・卵管・卵巣・骨盤腹膜に炎症を起こす状態だ。
主な原因菌はクラミジア・トラコマチスと淋菌だが、腸内細菌や嫌気性菌が関与することも多く、混合感染が多い。性活動期の若い女性に多く見られる。
症状——気づきにくいことが問題
PIDの症状は軽症から重症まで幅があり、無症状のまま進行することもある。
| 重症度 | 症状 |
|---|---|
| 軽症〜中等症 | 下腹部の鈍痛、帯下(おりもの)増加・悪臭、月経不順、性交痛 |
| 重症 | 強い下腹部痛・発熱38℃以上、子宮圧痛・付属器圧痛、卵管卵巣膿瘍 |
| 無症状型 | 症状なし(特にクラミジア感染)→気づかぬうちに後遺症が進行 |
強い発熱・腹痛は入院治療が必要
卵管卵巣膿瘍(卵巣・卵管周囲に膿が溜まった状態)を形成すると、入院して静脈内抗菌薬投与が必要になる。腹膜炎に進行すると生命を脅かす緊急事態になる。高熱と強い腹痛が同時にある場合は速やかに受診を。
後遺症——不妊と異所性妊娠
PIDを放置・繰り返すと、卵管に癒着・閉塞が生じる。これが不妊・異所性妊娠(子宮外妊娠)の原因になる。
- PIDを1回経験した場合の不妊リスク:約13%
- 2回経験した場合:約35%
- 3回以上経験した場合:約75%
- 異所性妊娠リスクは6〜10倍に上昇
早期治療が後遺症リスクを大きく下げる。クラミジアや淋菌の感染が判明した時点で、症状がなくてもPIDへの進展を防ぐために治療することが重要だ。
診断と治療
診断は臨床症状(下腹部痛+子宮頸管・子宮・付属器の圧痛)が基本で、血液検査(CRP・白血球上昇)、頸管培養・クラミジア検査、超音波検査で補完する。
抗菌薬治療
外来治療(軽症〜中等症)では、クラミジア・淋菌・嫌気性菌を同時にカバーする抗菌薬を組み合わせて14日間投与するのが標準だ。
- パートナーも同時に検査・治療することが再感染防止のために必須
- 治療中は性交を控える
- 治療後の症状消失確認(治癒確認検査)を行う
- 再発した場合・不妊が心配な場合は早めに不妊専門クリニックを受診
まとめ
PIDは「少し下腹が痛い」程度の症状から始まることが多く、受診が遅れがちだ。クラミジアや淋菌感染が判明した場合や、繰り返す下腹部痛・おりもの異常がある場合は、婦人科でPIDの検査を受けてほしい。将来の妊孕性を守るために、早期発見・早期治療が何より重要だ。
参考文献
- 日本産科婦人科学会. 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023.
- CDC. “Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021.” MMWR. 2021.
- Haggerty CL, et al. “Burden of pelvic inflammatory disease.” Sex Transm Dis. 2010.