▸ この記事のポイント
- HRTはホットフラッシュ・不眠・GSM(膣乾燥など)に最も効果的な治療法
- 「乳がんになる」という誤解が広まっているが、正しく使えば絶対リスクはごく小さい。詳細を知った上で判断してほしい
- 子宮がある場合はエストロゲン+プロゲスチンの併用が標準。子宮摘出後はエストロゲン単独でよい
- 乳がん既往・重症の肝疾患・原因不明の性器出血などは禁忌
HRTとは何か
HRT(Hormone Replacement Therapy:ホルモン補充療法)は、更年期に低下するエストロゲンを外から補充することで更年期症状を改善する治療法だ。1990年代から世界中で広く使われており、日本でも処方できる。
子宮がある場合、エストロゲン単独投与は子宮体がんリスクを高めるため、プロゲスチン(黄体ホルモン)を必ず併用する。子宮摘出後はエストロゲン単独でよい。
HRTの主な効果
| 症状・状態 | HRTの効果 |
|---|---|
| ホットフラッシュ・発汗 | 最も高い効果。症状を75〜80%軽減 |
| 不眠 | 睡眠の質・量の改善 |
| GSM(膣乾燥・性交痛・頻尿) | 局所投与で特に高い効果。長期継続が有効 |
| 気分・認知機能 | 中等度の効果(うつ症状が更年期由来の場合) |
| 骨密度 | 骨粗鬆症予防に有効。骨折リスクを下げる |
| 大腸がんリスク | 長期使用で低下(ただし主目的ではない) |
リスクについての正確な情報
HRTのリスクについて、2002年のWHI試験で「乳がんリスクが上昇」と報告されて以降、過度な不安が広まった。しかしその後の研究で、リスクは使用年数・ホルモンの種類・投与経路によって大きく異なることが分かっている。
乳がんリスク——数字で見る実際
- エストロゲン単独療法(子宮摘出後):乳がんリスクをほとんど増加させない
- エストロゲン+プロゲスチン併用:使用5年で乳がんリスクが若干上昇(絶対リスク増加は0.1%程度)
- 天然型プロゲステロン(マイクロナイズドプロゲステロン)は合成プロゲスチンより乳がんリスクが低い可能性がある
比較で考えると分かりやすい。HRTを5年使用した場合の乳がん絶対リスク増加は、肥満や飲酒よりも小さいとされている。「ゼロではないが、正しく使えばメリットが上回る」という判断が多くのケースで成り立つ。担当医と個別にリスク・ベネフィットを議論してほしい。
血栓症リスク
経口エストロゲンは静脈血栓症リスクをわずかに上昇させるが、経皮投与(貼り薬・ジェル)は血栓リスクがほぼ増加しないため、血栓リスクが高い場合は経皮投与が推奨される。
禁忌と注意事項
以下の場合はHRTが使用できない(禁忌)。
- 乳がんの既往・治療中
- 子宮体がんの既往・治療中
- 原因不明の性器出血(精査前)
- 活動性の静脈血栓塞栓症
- 重症の肝疾患
- 妊娠
開始前の検査が重要
HRT開始前に乳がん検診(マンモグラフィ)・子宮頸がん検診・内科的評価(血圧・脂質など)を行うことが推奨される。既往症・服用薬によっては慎重投与が必要なため、必ず医師の診察を受けてから使用してほしい。
HRTの使い方——剤型と投与法
日本で使えるHRTの剤型は複数ある。
- 経皮エストロゲン(貼り薬・ジェル):血栓リスクが低い。日本では最も使いやすい選択肢
- 経口エストロゲン:錠剤。飲みやすいが血栓リスクが若干ある
- 局所エストロゲン(膣錠・クリーム):GSM症状(膣乾燥・性交痛)に特化。全身への影響が少ない
- 黄体ホルモン:天然型プロゲステロン(ルテウム)または合成プロゲスチン
まとめ
HRTは適切な患者に適切な投与法で使えば、更年期症状を劇的に改善できる治療法だ。「乳がんが怖いから使わない」という決断も個人の選択として尊重するが、リスクの数値を正確に理解した上で判断してほしい。更年期のQOLを取り戻す選択肢として、ぜひ婦人科で相談を。
参考文献
- 日本女性医学学会. 女性医学ガイドブック 更年期医療編2019.
- The NAMS 2022 Hormone Therapy Position Statement. Menopause. 2022.
- Collaborative Group on Hormonal Factors in Breast Cancer. “Breast cancer and hormone replacement therapy.” Lancet. 2019.