ホルモン

甲状腺と女性ホルモン——婦人科症状に影響する甲状腺疾患

▸ この記事のポイント

  • 甲状腺疾患は女性に圧倒的に多く(男性の5〜10倍)、月経不順・不妊・更年期様症状の原因になることがある
  • 甲状腺機能低下症(橋本病):月経過多・稀発月経・疲労・体重増加・気分の落ち込みなど、更年期や鉄欠乏貧血と間違えられやすい
  • 甲状腺機能亢進症(バセドウ病):月経過少・無月経・動悸・体重減少・イライラ・眼球突出
  • 婦人科症状がある場合、甲状腺ホルモン(TSH・FT4)の検査は標準的に行われる

甲状腺と女性ホルモンの関係

甲状腺は首の前部にある蝶形の腺で、甲状腺ホルモン(T3・T4)を産生する。甲状腺ホルモンは全身の代謝を調節し、月経周期・排卵・生殖機能にも深く関与している。

甲状腺機能が正常でない場合、性ホルモン結合タンパク(SHBG)・プロラクチン・性ホルモン自体のバランスに影響し、月経異常・不妊を引き起こす可能性がある。

甲状腺機能低下症(橋本病)

甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンが不足する状態だ。日本では橋本病(慢性甲状腺炎)が最も多い原因で、自己免疫疾患だ。

婦人科的な影響

  • 月経過多・過長月経
  • 稀発月経・無月経
  • 不妊・流産リスク増加
  • プロラクチン上昇(高プロラクチン血症)

全身症状(更年期と混同しやすい)

  • 疲労・倦怠感・眠気
  • 体重増加・むくみ
  • 寒がり・体温低下
  • 気分の落ち込み・集中力低下
  • 便秘・乾燥肌・抜け毛

甲状腺機能亢進症(バセドウ病)

バセドウ病は甲状腺ホルモンが過剰に産生される自己免疫疾患だ。

婦人科的な影響

  • 月経過少・過短月経・無月経
  • 排卵障害
  • 不妊

全身症状(PMSやパニック障害と混同されることも)

  • 動悸・心拍増加
  • 体重減少・食欲増加
  • 暑がり・多汗
  • 手のふるえ・イライラ・不眠
  • 眼球突出(特徴的所見)

更年期様症状があって「ホットフラッシュ・動悸・気分の変動」があるとき、甲状腺機能亢進症との鑑別が重要だ。特に若い女性では更年期より甲状腺疾患の可能性を先に確認する。血液検査(TSH・FT4)で簡単に分かる。

検査と治療

検査 機能低下症 機能亢進症
TSH 高値(0.4〜4.0 μIU/mL超) 低値(0.4未満)
FT4(遊離T4) 低値 高値
抗体 抗TPO抗体・抗Tg抗体(橋本) TSH受容体抗体(バセドウ)

治療

  • 機能低下症:甲状腺ホルモン補充(レボチロキシン。チラーヂンS)。通常は生涯服用
  • 機能亢進症:抗甲状腺薬(MMI・PTU)、放射性ヨード治療、手術のいずれか

まとめ

甲状腺疾患は「見逃されやすい婦人科症状の隠れた原因」の一つだ。月経不順・不妊・疲労・気分の変動を婦人科で相談する際、甲状腺検査が同時に行われることが多い。「そういえば最近…」という症状があれば積極的に伝えてほしい。

参考文献

  1. 日本甲状腺学会. 甲状腺疾患診断ガイドライン2021.
  2. 日本産科婦人科学会. 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023.
  3. Grassi G, et al. “Thyroid dysfunction and reproductive failure.” Thyroid. 2020.

本記事は産婦人科専門医が監修した健康情報です。個々の医療判断は担当医師にご相談ください。本記事の内容は医療行為の代替となるものではありません。