▸ この記事のポイント
- 卵巣嚢胞は「卵巣に袋状の腫れができた状態」の総称。良性・悪性があり、種類によって対処が異なる
- チョコレート嚢胞は子宮内膜症が卵巣にできたもの。卵巣がんへの変化リスクがあるため定期観察が必要
- 5cm以下の嚢胞は多くの場合経過観察。急激な下腹部痛は茎捻転・破裂の可能性があり救急受診を
- 卵巣がんの早期発見のためにも、発見後は婦人科で定期フォローを続けることが大切
卵巣嚢胞の種類
卵巣嚢胞(らんそうのうほう)とは、卵巣に液体などが溜まった袋状の腫れの総称だ。種類によって原因・リスク・治療方針が異なる。
| 種類 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 機能性嚢胞 | 卵胞や黄体の変化でできる | 多くは自然消失(2〜3か月)。経過観察でよい |
| チョコレート嚢胞 (卵巣子宮内膜症性嚢胞) |
子宮内膜症による古い血液の蓄積 | 子宮内膜症の一種。卵巣がんリスクあり(後述) |
| 皮様嚢腫 (成熟嚢胞奇形腫) |
脂肪・歯・毛髪などを含む | 若い女性に多い。茎捻転のリスクあり |
| 漿液性・粘液性嚢胞 | 卵巣上皮から発生 | 良性のことが多いが、大きくなると手術を検討 |
| 卵巣がん | 悪性腫瘍 | 嚢胞性・充実性混在。CA125・超音波・MRIで鑑別 |
チョコレート嚢胞——特に注意が必要な理由
チョコレート嚢胞は子宮内膜症が卵巣に生じたもので、月経のたびに出血が溜まり袋状に大きくなる。名前の由来は、内容物が古い血液(チョコレート色)であることからだ。
通常の卵巣嚢胞より注意が必要な点は以下の通りだ。
- 卵巣がん(明細胞がん・内膜様がん)への変化リスクが通常の卵巣嚢胞より高い(4cm以上・10年以上の経過で約1〜2%)
- 嚢胞が破裂すると激しい痛みと腹腔内汚染を起こす
- 卵巣の機能(卵子の予備能)が低下するため、不妊リスクになる
- 年齢とともに大きくなりやすく、経過観察が必須
急激な下腹部痛は救急へ
卵巣嚢胞がある人が突然の激しい下腹部痛を経験した場合、茎捻転(嚢胞を支える茎がねじれる)または破裂の可能性がある。茎捻転は卵巣への血流が遮断されるため、数時間以内に手術が必要な外科的緊急事態だ。
診断と経過観察
卵巣嚢胞は多くの場合、超音波検査で発見される。良性・悪性の鑑別には以下の検査を組み合わせる。
- 経腟超音波:内部構造(液体・充実成分・隔壁)を評価
- MRI:チョコレート嚢胞と他の嚢胞の鑑別に有用
- CA125・CA19-9:悪性度の参考。チョコレート嚢胞ではCA125が上昇することが多い
経過観察の目安
5cm以下の嚢胞・明らかに機能性または良性と判断できる場合は、3〜6か月ごとの超音波で経過観察するのが一般的だ。チョコレート嚢胞は特に年1回以上の観察を継続することが推奨される。
治療——手術はいつ必要か
以下に該当する場合に手術(腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出術)が検討される。
- 嚢胞が5〜6cm以上に成長している
- 急速に大きくなっている
- 悪性が否定できない超音波・MRI所見がある
- 茎捻転・破裂を起こした(緊急手術)
- 強い痛みや圧迫症状がある
- 不妊治療前に卵巣機能を確認・温存したい
まとめ
卵巣嚢胞は「発見されたら必ず手術」ではないが、種類によっては定期的な観察と適切なタイミングでの治療が必要だ。特にチョコレート嚢胞は長期的な管理が重要で、放置は卵巣がんリスクと不妊リスクにつながる。「検診で嚢胞を指摘された」という場合は、必ず婦人科でフォローを続けてほしい。
参考文献
- 日本産科婦人科学会. 産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2023.
- Somigliana E, et al. “Surgical excision of endometriomas versus fenestration and coagulation.” Fertil Steril. 2003.
- 日本婦人科腫瘍学会. 卵巣がん治療ガイドライン2020.