▸ この記事のポイント
- 更年期にはうつ病と区別しにくい気分の落ち込み・不安感が起きる。ホルモン変化が脳内セロトニンに影響するためだ
- 「更年期由来の抑うつ」はHRTが有効な場合が多い。「本物のうつ病」はSSRI/SNRIが第一選択
- どちらから受診してもよい。婦人科でも精神症状への対応はできる
- 希死念慮(死にたい気持ち)がある場合は精神科・心療内科への紹介が必要
更年期に抑うつが起きる理由
更年期にうつ症状が現れる女性は少なくない。これにはいくつかのメカニズムが関わっている。
- エストロゲンのセロトニン調節作用の低下:エストロゲンには脳内セロトニン(気分を安定させる神経伝達物質)の産生を助ける作用がある。閉経後にエストロゲンが低下すると、セロトニン不足が抑うつ・不安につながる
- 睡眠障害の影響:ホットフラッシュによる夜間の睡眠妨害が慢性的な睡眠不足を引き起こし、気分の落ち込みを悪化させる
- 心理社会的要因:子どもの独立・親の介護・仕事上の変化など、この年代特有のライフイベントがストレスとなる
更年期うつとうつ病——どう違うのか
| 項目 | 更年期由来の抑うつ | うつ病 |
|---|---|---|
| 経過 | 更年期症状と並行して現れる | 更年期と無関係に発症することもある |
| 身体症状 | ホットフラッシュ・不眠を伴うことが多い | 食欲低下・体重変化・倦怠感が中心 |
| 気分の特徴 | 波がある。良い日・悪い日がある | 持続的な抑うつ気分(2週間以上毎日) |
| HRTへの反応 | 改善する場合が多い | 改善しにくい |
| 希死念慮 | 少ない | あることがある |
鑑別は簡単ではなく、両者が合併することも多い。「更年期だから仕方ない」と思い込んで、うつ病を放置するリスクがある。症状が2週間以上続き、日常生活に支障が出る場合は必ず専門家に相談してほしい。
婦人科 vs 心療内科——どちらを受診するか
更年期の精神症状でどちらを受診すべきか迷う人は多い。以下を目安にしてほしい。
まず婦人科で相談すべきケース
- ホットフラッシュ・不眠などの身体症状と一緒に気分の落ち込みがある
- 月経周期に合わせて気分が変動する
- 更年期かどうか確認したい(ホルモン検査を希望)
- まずHRTを試してみたい
心療内科・精神科を受診すべきケース
- 希死念慮(死にたい・消えてしまいたい)がある
- HRTを2〜3か月試しても気分症状が改善しない
- 以前にうつ病の既往がある
- 仕事・家事が全くできないほど重症
- パニック発作・強迫症状など精神症状が中心
どちらを受診してもよい
更年期の精神症状に対応している婦人科は多く、漢方薬の処方やHRTを組み合わせた治療ができる。精神症状が重症の場合は精神科への紹介も行える。「婦人科は身体の病院」という先入観を持たず、気になったらまず婦人科に相談してほしい。
治療の選択肢
- HRT:ホットフラッシュなどの身体症状と並行している場合に特に有効
- 漢方薬:加味逍遥散(気分の不安定・イライラ)が更年期の精神症状に広く使われる
- SSRI/SNRI:更年期由来ではなくうつ病成分が大きい場合に有効。ホットフラッシュを軽減する効果もある
- 非薬物療法:認知行動療法・マインドフルネス・定期的な運動が有効というエビデンスがある
まとめ
更年期の気分の落ち込みは「年齢のせい」や「怠けている」からではない。ホルモン変化による生理的な変化が関与している。「我慢する」のではなく、適切な治療でこの時期を乗り越えてほしい。婦人科・心療内科のどちらでもよいので、一人で抱え込まず専門家に相談することを強く勧める。
参考文献
- 日本女性医学学会. 女性医学ガイドブック 更年期医療編2019.
- Freeman EW, et al. “Associations of hormones and menopausal status with depressed mood in women with no history of depression.” Arch Gen Psychiatry. 2006.
- Soares CN, et al. “Efficacy of estradiol for the treatment of depressive disorders in perimenopausal women.” Arch Gen Psychiatry. 2001.